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今週の三冊

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新刊旧刊ジャンル問わず、読書人のスタッフが「いま読んだもの」を毎週三冊、150字程度で紹介していきます。 このページでは過去1年分の記事を表示していますが、 各年度でまとめて表示する場合は、以下のリンクからご覧ください。

2012年 3月 3週目

評者:木許 裕介

大浦康介『誘惑論・実践編』

晃洋書房。これは本当に面白い!著者と謎のダンス教師との対話という形式で書かれており、文学・絵画・武術・ダンス・思想・催眠などの領域を自在に横断しながら、時に声を上げて笑ってしまうようなユーモアを交えつつ、「誘惑とは」「誘惑者とは」というテーマが語られている。誘惑とはつまるところ、「他者をその方向に誘いつつ、ともにそれを経験すること」であり、誘惑者とはある意味で「恋愛の冒頭部分をつねに新たに書き直している人間」と論じる「謎のダンス教師」の言葉は奮っている。身体と思想の間を行き来する衝撃的な一冊だった。

宇野直人・ 江原正士『漢詩を読む 4』

平凡社。「漢詩を読む」シリーズの最終巻。このシリーズは漢詩に対する僕の理解を変えてくれた。受験勉強のために高校で習った漢詩は、これほどまでに面白く、人間味のあるものだったのか。こちらも対話形式で書かれており、すんなりと読む事が出来る。第四巻には陸游から魯迅まで、宋代中期から近代までの漢詩が収められている。生老病死、出会いや離れといった人間の普遍的な感情とともに、それぞれの時代における社会の盛衰が詩に色濃く刻まれており、「その時代」に生きた人の姿を思わずにはいられない。「詩を通して歴史を見つめる」という帯の言葉の通りの好著。このボリュームにして1900円というのも驚き!

森田学『音楽用語のイタリア語』

三修社。テンポ、アッサイ、カンタービレ。何となく聞いたことのある音楽用語、あるいは何となく意味だけ知っている音楽用語をその語源から解説してくれる小事典。アレグロ、という単語一つをとっても、ラテン語alacer「きびきびした」から意味が掘り起こされており、単なる速度表示記号以上の意味を教えてくれる。それぞれの単語に英独仏訳が付記されているのも嬉しい。その単語を使った例文まで掲載されている(巻末にはイタリア語基本文法まで!)という点で、イタリア語の学習用としても活用出来るだろう。

2012年 3月 2週目

評者:木許 裕介

鷲田小彌太『こんな大学教授はいりません』

言視舎。『大学教授になる方法』の著者の最新刊。「淘汰の時代」に求められる人材、という副題にあるように、現代において大学が、そして大学教員が果たすべき役割は何かを論じている。「広く世界のことに目をやり、新しい問題意識を吸収し、しかも、たえず自分でものを考えたり書いたりすることを厭わずにやってきた、精神的活動において強靭な人たちのみが耐えうる仕事が、大学教育なのだ」という一節は重い。

飯吉光夫 編・訳『パウル・ツェラン詩文集』

白水社。パウル・ツェランは両親をアウシュビッツで失い、自身も強制労働を経験した詩人。その詩は抽象的だが、闇から光を放つような力に溢れている。収容所の生活の中にあっても詩を書き続けパウル・ツェランが、シベリア抑留にあっても絵を描き続けた画家である香月泰男と重なって見える。翻訳は「全詩集」以外なかなか手に入りづらかったが、このセレクションによってツェランの詩への距離が随分と近くなったのではないだろうか。ゲオルグ・ビューヒーナー賞受賞講演「子午線」をはじめ、ツェランによる詩論も収録されており、とても充実した一冊だ。

池澤夏樹『池澤夏樹の世界文学リミックス』

河出書房新社。「世界文学全集」(全30巻、ついに巻結!)編者の池澤夏樹氏が夕刊フジに連載していたコラムを纏めたもの。ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』から石牟礼道『苦海浄土』まで、全79冊の紹介が収録されている。一冊の紹介につき三ページと短いが、その中で大いに誘惑され、紹介されている本に手を出してみたくなってしまう。各回のタイトルだけ見ても池澤氏の編集の意図が伝わってきて面白い。

2012年 3月 1週目

評者:木許 裕介

戸田ツトム『陰影論 -デザインの背後について-』

青土社。現代思想関係の装丁を多く手掛けていらっしゃるグラフィックデザイナー、戸田ツトム氏によるデザイン思想。オオウバユリに始まり、都市、絵画、さらには触覚へと話が展開する。「<紙>は概念やことばを媒介しない直接の現実です。其の現実は、指先ではじめて起きる事件、でもあります」というように、半透明な領域が詩的に、しかし鋭く描かれてゆく。ひとつの章を読み終えるたびに、本を閉じてこの装丁の手触りに思いを馳せてしまうのは、私だけだろうか。

長田弘『記憶のつくり方』

晶文社。長田さんの文章は、ひとつひとつが短いのに、いつも不思議な温もりを持っている。多くは語るまい。「日々に流されるもののかなたでなく、日々にとどまるもののうえに、自分の時間としての人生というものの秘密はさりげなく顕われると思う。…(中略)…書くとは言葉の器をつくるということだ。その言葉の器にわたしがとどめたいとねがうのは、他の人々が自分の時間のうえにのこしてくれた、青い<無名>、青い<沈黙>だ。」という一文が何よりも雄弁に物語っているように思われる。

笹岡隆甫『いけばな -知性で愛でる日本の美-』

新潮選書。いけばなの美はくずしの美、引き算の美であり、花の命の移ろいを最後まで見届ける芸術だと言う。「いけばな」という芸術の魅力が平易な文章から良く伝わってくる。読後、いけばなをやってみたいな、と強く思った。

2012年 2月 3,4週目

評者:木許 裕介

ルイス・ロックウッド『ベートーヴェン -音楽と生涯-』」

春秋社。これは本当に素晴らしい一冊だ。900ページを超す大著だが、その中にベートーヴェンの生涯が描かれ、同時に鋭い視点から楽曲が分析されている。音楽と生涯というサブタイトルの通り、作品分析の本でもあり、伝記でもある。とりわけピアノ協奏曲第四番の二楽章の捉え方には感銘を受けた。音楽に携わるものにとっては一生本棚に置いておきたくなる一冊だろう。

野村三郎『「音楽的」なピアノ演奏のヒント』

音楽之友社。副題に「豊かなファンタジーのイメージ作り」とあるように、著者は「もっと自由にファンタジーの翼を広げて音楽を楽しんでみよう」と我々に呼びかける。ではどうやって?翼を広げるために、作曲家の背景や歴史、「愛の六度」や「嘆きの音型」などの沢山のヒントが本書には収められている。

土田健次郎『儒教入門』

東京大学出版会。「仁」「義」といった儒教道徳や「聖人」などの儒教的人格、さらには儒教に基づく社会観である徳治主義などがコンパクトに解説されている。高校時代に様々な科目で触れるものの、いまいち正体のつかめない「儒教」だが、この一冊でようやく頭が整理された。

2012年 2月 1,2週目

評者:木許 裕介

原田マハ『楽園のカンヴァス』」

新潮社。『カフーを待ちわびて』の著者が二十五年の構想を経て贈る、史実に基づいたアートミステリー。著者はキュレーターとして活躍していたこともあり、絵画をめぐるふとした描写や会話に鋭いリアリティが宿っている。

本郷恵子『蕩尽する中世』

新潮社。四百年の中世に流れる経済システムを、「蕩尽」という言葉をキーに読み解いて行く。最後に纏められた中世の見取り図が非常に読みやすい。受験生にもおすすめの一冊。

寄川条路・編『若者の未来をひらく 教養と教育』

角川学芸出版社。様々な分野の研究者が、「教養」とは何か、「教養」とはどうあるべきかをそれぞれの立場や領域から論じている。姉妹本の『新しい時代をひらく 教養と社会』と合わせて読みたい。 

2012年 1月 3週目

評者:木許 裕介

西村公朝『「形」でわかる仏像入門』」

佼成出版。紫綬褒章を受賞した名仏師による仏像入門。仏像に関する資料的な書物ではなく、仏像が伝えようとする「メッセージ」が非常に分かりやすく説明されている。「目と手と心で仏像に触れる」とあるように、仏像を手で感じるという考え方には頷かされた。仏師は手で像を作り上げて行くのだから、そこに触覚的要素が重要な意味を持つ事は間違いないだろう。仏像についての見方が変わる一冊。

本郷恵子『将軍権力の発見』

講談社選書メチエ。鎌倉幕府から室町幕府へ時代が移る中、室町幕府はどのような統治構造を作り上げたのか。南北朝と朝廷とはどのような関係にあったのか。太上官符や官宣旨といった文書を切り口に、中世の姿を解きほぐしてゆく。

鹿島茂『絶景、パリ万国博覧会』

河出書房新社。副題「サン=シモンの鉄の夢」とあるように、パリ万博とは「人間による人間の搾取から、機械による自然の活用へ」というサン=シモンの共産主義的思想を受継いだ人々(たとえばミシェル=シュヴァリエ)による、ユートピアの実現形態だと結論づける。図版が200点も収録されているのには感動!

2012年 1月 1,2週目

評者:木許 裕介

アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』」

ちくま学芸文庫。長らく絶版になっていたこの名著がついに復刊された。松岡正剛氏に「この一冊がぼくを変えた」と言わしめた本書には、「人類」の進化の過程が生物学と人類学の両方の視点からスリリングに描かれていて、700ページ弱という大著にも関わらず読み飽きる事が無い。第一部(技術と言語)、第二部(記憶と技術)、第三部(記憶とリズム)と次々に論を展開しながら、人類の歴史が紡がれてゆく。

佐藤輝彦『本物を見極める-3億円のヴァイオリンはいかに鑑定されるのか?』

ヤマハミュージックメディア。日本弦楽器社の代表であり、ヴァイオリンバイヤーでもある佐藤氏が描く銘記鑑定の世界。なぜストラディヴァリウスはあれほどの値段がするのか。そもそも銘器とは何なのか。どうやって見抜き、入手し、人の手に渡って行くのか。佐藤氏の語りは温かく、楽器と人との出会いに命を注いでいらっしゃる様子がひしひしと伝わってくる。豊かな図版も必見。

宮本英世『クラシックよ永遠に -名曲喫茶「ショパン」店主の追憶-』

朝日クリエライブラリー。名曲喫茶「ショパン」の店主が語るクラシック音楽との出会い、人生、そして「ショパン」を開くまで。氏の人生にとってクラシック音楽がどれほど大きな位置を占めていたのか。「ショパン」は東京、要町にあるという。近いうちに訪れてみたい。

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